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彼は当時35歳。見た目は普通のヲタク。
既婚。メガネ。中肉中背。少し刈り上げ。F1好き。ガンダム好き。子供なし。奥さんは病気を患っている。
今回のお話は10年間一緒に仕事をした先輩、元木さんのお話しです。
そんな彼の食品工場での生き様を見ていきましょう〜
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私服にネクタイ




地下を牛耳る悪魔
当時はまだ平成真っ只中。
今じゃ考えられないくらいパワハラは日常化していた。
ここの工場長(当時)はホント酷かった。
特に元木さんは目を付けられていてある日休憩室の掲示板に元木さんが残業した時間、
工場内での作業して出てしまった損失の額、これら半年分をデータ化して貼り出されたこともあった。
やりすぎで引いている工場の人達の空気を察してか、翌日には張り紙はなくなっていた。
当の元木さんは、がんばって平静を装っている感じだった。
特に工場の中で嫌われているような存在でもないので、
「工場長やりすぎだろ」とか「元木、気にするなよ」
同情の言葉は多く交わされた。
当然工場長に直接言える人はいない。
地下を牛耳る悪魔。
誰も逆らえなかった。
ネクタイ
酒が大好物な工場長は頻繁に飲み歩いていた。
会社のイベントだと暑気払いと忘年会は絶対に開催される行事ごとで、
主催は工場長で全員が強制参加させられていた。
ここの工場は仕事が終われば職場の人とは一緒に居たくないという人が多かったから、
強制参加を苦痛に感じる人も少なくなかった。
半年というのはとても早いもので、すぐに飲み会の時期が来てしまう…
新入社員は飲み会を断ろうとして
「バカヤロー!これも仕事なんだよ!」と
工場長にキレられていた。
ある時の忘年会に元木さんが出席しないとの噂が流れ、みんなが心配していた。
元木さんは工場長にとても嫌われているから。
いじめが加速するんじゃないかと。
元木さんは忘年会不参加について工場長に伝えに行った。
「その日はちょうど新宿で応援しているバンドのライブがあるんです。」
「は?それキャンセルすればいいだろ!」
「う~ん、もうチケット返金できないんですよ。」
「ていうかさ、その予定ホントかよ?嘘だろ?嘘言ってるんだろ!?」
「ほ、ホントにライブなんです。その日は本当に忘年会は行けないんです。」
「もういいよ!お前がいるから工場がまとまんねーんだよ!!」
翌日には元木さんがライブで忘年会にいけないことが社内に広まっていた。
忘年会に行かないことは皆が賛成していたけど、断る理由が下手くそ過ぎなんじゃないかとの
話題のほうが盛り上がってしまっていました。
仕事が出来ない人は断ることだったり、物事を上手くかわしていくことが苦手。
「もう、忘年会とかさ、みんな行きたくないの気がつけよ!あの工場長は!」
元木さんは気がしれた中ではいつものように工場長のことを延々と批判していた。
忘年会当日朝、作業着に着替え休憩室で始業時間まで各々いつものように
雑誌を読んだり、ギリギリまで寝ている者もいるなか元木さんが出勤してきた。
元木ファッション定番のチェックシャツとGパン。
しかしこの日はネクタイをしていた。
思わず二度見してしまう人もいた。違和感半端ない。もはや大迫よりもはんぱねぇ。
ヨレヨレの私服のチェックシャツにネクタイ。
下はくたびれたジーパン。
なぜネクタイをしてきた?
休憩室が変な空気になっている。
「今日、ライブだからさ」
元木さんはぼそっとつぶやくように、だけどそこそこの距離まで聞こえるように言った。
「ふぅっ 」
めんどくさそうにネクタイを外す。
先に現場に向う者、早めに出勤しているパート達がコソコソ話してる。
「ファッションなんて自由だけどさぁ、なんだあれ?」
「仲いいけど気まずくて聞けないよ。あれはないわ〜あちゃ〜」
「なにがどうなるとネクタイしてきちゃうんだろ?」
「こっちが恥ずかしいんだよ」
工場という少世界はホントどうでもいいことで盛り上がる。
一定数、内輪の批判を好物とするものが巣食う。
しかしながらこの日の元木さんの態度は面倒臭かったのは事実。
出勤してきたときからもう、小さい子が悪いことしてそのままなら親に怒られるのわかってるから、なんでもいいから何かに怒ったようにして、悪いことしたことの話になってもなんか怒りづらい空気作ってやろ的な感じだったから。
ネクタイについて聞いちゃいけない空気かもしだしてるから。
話しかけられないよ。
靴はいつも通りのくたびれきったアシックスの白いスニーカー。
日中、元木さんがネクタイをしてきた狙いと思い描くシナリオを打ち明けてくれた。
みんなホントだったろ?俺はネクタイまでしていつもの服装とは違うだろ?、ライブに行くファッションだろ?
これで工場長にも噂話が伝わるよな、
「元木さんのライブ行くって話、ホントっぽいですよ」
「だって今日、わざわざネクタイまでしてきてるんですよ。」と、みんな噂するはず。
そうなりゃ工場長だって、「なんだライブはホントだったのか、悪かったな疑って」
こう思うはずだろシメシメ
ってなるかい!!
まさに底辺の極み。悲しくなった。
その日の帰り元木さんは仕事が終わりかけの時間に工場長に呼び出されていた。
しっかりネクタイをしている。
「お前ほんとに今日忘年会でないのか?」
「来週からもう会社にも来なくていいよ、いらね。」
「……」
「どうすんだよ?忘年会くるのか!?」
これで、はい行きます なんて言うわけ無いだろアホ工場長。正気か?ギャグか?
結局元木さんは忘年会に現われず、
週明けから、工場長に「ネクタイ」と呼ばれるようになりました。
おしまい。
それではまた会いましょうby食品工場(bla9factory)
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