今回は歴代史上最低だった会社の飲み会のおはなしです。
私のいる会社では外で飲まずに安く簡単に済ませようと会社の休憩室で工場の男だけで飲み会をすることがあります。
その中でもこんなにつまらない飲み会はもう後にも先にもないだろうなと思った日がありました。
それではご覧ください。
焼肉するはずだったのに

金曜日、18:00
この飲み会の日は会社の休憩室にホットプレートを出して焼肉とお好み焼きをすることになっていました。
参加者は8人。工場で働く男たち。
事前に食材は買い出し済みで準備万端。
その日は特に残業などもなく全員が開始時間に集合して飲み会が始まった。
仕事を終えたばかりの20代、30代の男ども、腹が減りまくっている。
まずは乾杯してコンビニで買ってきた乾き物を口にしながら、とにかくガンガン肉を焼いていこうということになった。
前日の買い出しは普段から料理をしているという宇野が行ってくれた。
父子家庭でいつも家事をこなしている宇野が中心に肉を焼き始める。
宇野は入社1年。27歳。
父親と男三兄弟で母親は宇野が25歳のときに不倫して父親にバレ家を出て離婚。
すぐに浮気相手とも別れ今は実家に帰ったらしい。
宇野が焼けた肉を取り分けている。
他の人が肉を自分で焼こうとすると
「俺が焼くので食べるだけでダイジョブですよ」
ニコッとして宇野が肉も野菜も焼いて個々の更に取り分ける。
宇野が焼いて皿に盛られ、
食べる、
宇野が焼いて自分の皿に盛られるのを待ち、
盛られ、
食べる、
宇野は超活き活きしていて楽しそう。
「いつもやってるんで!」
仕事では全く見せない笑顔だ。
他7人は無表情と愛想笑い。
超つまんない
焼肉で全く焼いたりできないのって超つまんないの!
宇野帰れよ。
お前の手際の良さ見せる回じゃないの。
みんな自分で焼きながら時には「どうぞ〜」って誰かに肉を盛られたり、
そんなんしながら酒のんで、雑に盛り上がりたいの!
ワイワイガヤガヤと。
他の人が肉を自分で焼こうとして2回静止されているのをみて、
先輩、上司も気まずくてもう誰も手を出せない。
回らない寿司屋でカウンターで大将の寿司を待つかのようにホットプレート前で肉を待つ7人。
楽しそうに肉を焼く宇野。
しかし宇野は菜食主義者。肉は小学生以来食べたことがない。
とても複雑な状況だ。肉を取り仕切る者が肉の味を知らない。
そんな男が大将気取りで肉を焼いて楽しそうに取り分ける。
一番美味しい焼き具合を自分で確認したことがない宇野。
本当に帰って欲しい。
今の所飲み会の口数が過去一番少ない。
まさに寿司屋のよう。
大将宇野の普段の家事の話を中心に会話が進む。
つまらなすぎる。
なんだこの真面目で大人しくてつまらない飲み会は……
丁寧に一枚一枚焼いているから全然肉が回ってこない。
まだまだ肉が大量にある中、宇野が
「もう全然焼けないのでまとめて焼いちゃいますね。」と言って
休憩室の調理器具置き場から大きなフライパンを取り出した。
……
冷蔵庫に用意してある肉を取り出し、
ま、まさかと思ったときにはもう一気に肉と野菜を大量に炒めだしていた。
……
て、てめえ…
野菜炒め作ってんじゃねーよ!
なんでまとめて焼くの…
もう台無し、焼肉じゃない。
自分で焼きながらやりたかったのに……
今までそうやって盛り上がってきたのに
一同唖然。
大量に肉と野菜を炒めてすぐに全員に振る舞われた。
「うん。うまい!」「うめえ、うめえ」
空気を汚さぬよう、少しでも楽しい場が作られるよう、宇野以外が一致団結していた。
宇野は大変満足そうに
「あ、はいありがとうございます。いつものことなんで、」
まんざらでもなさそうにスカしている。
ほんとにシラけた焼肉となった。
だけど肉を食した後にはお好み焼きが控えている。
宇野以外は次こそは楽しい場になることを期待していた。
お好み焼きのタネを混ぜるものがない!




お腹が少しは満たされたところで焼肉用の肉は全部なくなった。
次はお好み焼きを作る。
酒を飲みながら作業をみんなでする。
相変わらず料理の主導権は宇野が握っていて、
違和感この上ない。
飲み会は味というよりその場を楽しむのがメイン。
キャベツの切り方とか、生地の配合とか宇野がうるさい。
一時間も経っていない中、酒に弱いやつは既に酔いが回り始め、
お好み焼きの準備には参加していないけど
楽しい感じで酔っ払って笑っている。
そんな感じが飲み会らしくていい。
一方では宇野がゴチャゴチャと指示している中、
お好み焼きのタネが完成した。
大人の男8人分は大量だ。
「じゃあ、焼きましょう」
誰かが言った。
「そうなんですけどねぇ…」
宇野が何かを探している
「菜ばしとかお玉とか何か混ぜるものがなくて…」
そういえば焼肉のときも菜ばしがないから割り箸を使って焼いていた。
かなり大きい鍋にお好み焼きのタネを入れたから底が深く
割り箸では下までとどかないしうまく混ぜることができなかった。
うまく行かない日はこういうことが続く。
フォーク、スプーン、割り箸、ストロー、包丁。
混ぜるために使えそうなものは試したけど全部うまくいかない。
どうするか次の手をみんなで考えていると今回の飲み会で一番立場が上の課長が
「田辺、混ぜちゃえよ」と言った。
「混ぜるのないんすよ〜」
「知ってるよ、俺ずっとここにいるだろ!」
「手洗ってさ、手で混ぜちゃえよ」
……一瞬時が止まる
宇野もここからは一歩引き、口を挟まなくなった。宇野でも気がつく異常さ。
「え、いいすか?俺はいいですけど…」
周りを気にする田辺、こいつは工場の中で一番明るくてバカなムードメーカーで課長と仲がいい。
もはや課長と田辺を止められる者はいない。
当時かなり上層部ともズブズブだった課長の意見にだれも反対することはできないし、酒も入っているせいもあってか、課長の流れを誰も止めることができず、
田辺が手で混ぜることとなった。
汚すぎる。絶対食べたくない!
それぞれが徐々に予防線を張り始めた。
このお好み焼きを絶対に食べないための作戦が密かに個々に
水面下で動き出している。
課長以外が汚くて嫌だと思ってることの一番の理由は
田辺はアトピーで常に全身がガサガサであることだ。
当然混ぜるために突っ込む右腕もガサガサである。
ガサガサの皮膚入りお好み焼きが出来上がってしまうのは必至だ。
グチャグチャ!グチャグチャ!
手を突っ込み混ぜ始める。
なんとおぞましい光景。
人が逃げ始める。
「俺今日朝から腹の調子悪くて」
そう言った彼はお好み焼きが終わるまで戻ることはなかった。
「酔いが回ったので少し寝てていいですか?」
突然酔っ払って寝るやつ。
「あー、焼肉とお菓子食いすぎてもう無理っす。俺お好み焼きいいっす。」
「あ、俺もです。」
続々と離脱していく。
馬鹿な課長はなぜみんなが離脱していくのか全く気がついていない。
この課長は後に壮絶な不倫をかます超大馬鹿野郎だからしょうがない。
突然田辺が混ぜ終わったネタが入った鍋にコップを突っ込む。
「何やってんだよ!」
課長の怒声。
「お玉がないのでコップですくってプレートに移そうかと…すんません。」
田辺は昔から課長の犬だから普通に反省している。
「手でいいだろ!」
え!?一瞬の静寂。
良くねーだろ!
もう俺らはこれ以上の汚い光景は見たくない。
それは人間が食べるのですか?
課長、田辺勘弁してください……
「あっそっか!」
そっかじゃねーんだよ……
田辺がさすが課長!的に作業を開始する。
「お好み焼きの生地って冷たくて気持ちいいですねぇ」
もう完全に混ぜ終わっているのに気持ちいいからと無駄にタネの中で腕を動かしている。
「早くしろよ」笑
課長がお前しょうがねえなぁ的に次の作業をうながす。
両手で丁度いい位の量をすくってホットプレートに落とす。
もうこれなんの作業してんだ?。今日なんの日だよ。
目の前の光景が異常すぎてみんなが笑い始めた。
「田辺何やってんだよ」「写真とらしてよ」
「どうぞどうぞ」
田辺は自分で笑いを取ったかのように喜んでいた。
こんなのは誰がやろうが異常この上ない。
田辺は調子に乗りやすい。
3枚めを焼くとき、両手でネタをすくってホットプレートに置くかと思いきや、
ネタを持った両手をそのままグーにしてネタをぶちゅーと握り潰し、指と指の間から
ニュルニュルと出てくる生地をそのままホットプレートに落とすという奇行を繰り出した。
もうぶっ飛ばしてやりたいくらい。すごく汚い光景だ。
流石に課長も汚いと思ったようで、
「この一枚は田辺のな!」と少し注意気味に言った。
「あ、は、はい当然です。これ俺のです。」
田辺は指の隙間から絞り出した生地を丸く整え、
人差し指で 生地に た な べ と書いた。
みんなが爆笑した。
近藤くんを除いては。
時間が経ちお好み焼きが完成していく。
3枚焼いてあって1枚は田辺の。
あと2枚を4等分ずつにして8枚に、人数分に分けることが出来た。
みんな逃げちゃって今は4人しかいないけど……
課長と田辺が食べ始める。
俺は躊躇しながらもお好み焼きを皿に1つ取った。
他の人達が手を付けようとしない中、
「どんどん食べなよ」
課長が言う。
躊躇しながらも徐々に皆が皿にとり始める。
そのさなか
「僕、汚くって食べれないです。」
お好み焼き作りから笑顔が消えた近藤くんが言った。
田辺がばつの悪そうな顔をしている。
「え?そうなの?」
「それでみんな食べないのか」
課長はようやく気がついたようだ。
「俺そんなの全然気にしないけどね」
そう言って課長は2枚めを食べ始めた。
始まったよ、
常にワイルドな男に見られたい課長。
言動を「ワイルド」な方向へ強引に持っていく。
それを知ってる俺ら部下たち。
一番分かっているのは俺らだよ、あなたは根から腐りきったネチネチと細く繊細なチキン野郎ですよ。
こんな汚え物食えるかよ。
この汚物を食えることはワイルドとは言わないんだよ変態。
皆、皿には取ったものの食べることには躊躇している。
それを見て
「田辺、その生地全部捨てて!」
課長はイライラし始めた。
「え、あ、はい!」
俺は皿に取った分も捨てるものだと指示を勘違いしたふりをして、皿のお好み焼きを速攻で捨てた。
それを目にした他の者もすぐに後に続いて捨てた。
いつも仕事で足を引っ張る近藤くんが超ファインプレーをやってのけた。
課長がいなけりゃみんなで近藤くんを胴上げしていただろう。
お好み焼きの片付けを皆で始めたときに
課長は無言でいなくなった。
トイレに行ったものだと思っていたがそのまま帰ってしまった。
相変わらずわけが分からず面倒臭い人だ。
休み明けに引きずってなきゃいいが……
結局お好み焼きは1つも食べず仕舞いとなった。
その分食いざかりの男達の腹は全く満たされていない。
逃げていった人たちに課長が帰ったことを伝え呼び戻して
近所のスーパーへ食材の買い出しに行くことになった。
買い出しから帰ってきたら……




いつもは下っ端数人で買い出しに行くが、たまには全員で行こうということになった。
宇野も下っ端に入るので暴走を阻止したい思いがみんなの気持ちを1つにしたのかもしれない。
スーパーヘは往復で30分はかかる。
今回はもうそれぞれ食べたいものを買おうということになった。
買い物袋が4つにもなって重かったが、酔っている者もいて帰り道も馬鹿な話で盛り上がり、
本来の飲み会がようやくスタートする気がした。
スーパーから15分歩き会社に戻ってきた。
全員で買い出しに行ったから会社には鍵をかけ、電気は全て消えている。
鍵を明け休憩室に戻り電気をつける。
電気をつけたと同時に何かがカサカサカサッと動いた。
「うわ~~!!」
田辺が叫んだ。
ゴキブリだった!
3匹がテーブルの上のつまみの皿から部屋の隅へ逃げていった。
デッカイ管理職クラスのゴキブリ達5匹は俺達人間を無視するかのようにつまみの皿に留まってディナーを楽しんでいる。
なんて日だ!!
もう最悪。
ゴキブリが飲み会をしちゃってた。
初めて見る光景に吐きそうになった。
一人が殺虫剤を持ってきて噴射した。
ゴキブリは一斉に退散した。
あまりの数の多さに圧倒されて誰も叩き殺しには行けず、その光景を見守るだけだった。
全て食えなくなってしまったつまみ。
殺虫剤が立ち込める休憩室。
俺達はこんなにもゴキブリに汚染された空間で飲み食いをしていたのか!?
こんな劣悪な環境で日々の休憩をとっていたのか!?
もうこのまま飲み会を続ける気は完全に失せてしまった。
休憩室の片付けをしてから外来者用の綺麗な応接室でコンビニで買ってきたものを食べて帰ることになった。
本来は課長以上の許可がないと使用してはいけない部屋。
もうみんなそんなのどうでもよくなっていた。
とりあえずご飯を食べたい人はご飯を食べ、ゴキブリをみて食欲が失せてしまった者は飲み物をちびちびと飲みながら、皆、口数も少なく食事を終えた。
こうして悪夢ともいえる飲み会は終了したのだった……
それではまた底辺でお会いしましょう。
食品工場(@bla9factory)でした。